松山地方裁判所 平成11年(ワ)361号 判決 2000年9月29日
原告
高塚哲彦
外七一名
原告兼原告五三名訴訟代理人弁護士
薦田伸夫
被告
後藤田正晴
右訴訟代理人弁護士
才口千晴
同
北澤純一
同
加々美博久
同
高田千早
被告
株式会社講談社
右代表者代表取締役
野間佐和子
右訴訟代理人弁護士
的場徹
同
山田庸一
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告後藤田正晴(以下「被告後藤田」という。)、被告株式会社講談社(以下「被告講談社」という。)は、各自、原告らに対し、各金一〇万円及びこれに対する平成一〇年六月二四日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告らに対し、別紙目録一記載の謝罪広告を朝日新聞の全国版朝刊に、同目録二記載の掲載条件で一回掲載せよ。
3 被告らは、別紙目録三記載の書籍(以下「本件書籍」という。)の印刷、製本、販売及び頒布をしてはならない。
4 被告らは、既に出版した本件書籍を回収しなければならない。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者関係
(一) 原告らは、我が国における死刑制度の廃止を願い、「死刑廃止国際条約の批准を求める四国フォーラム'92」(以下「四国フォーラム」という。)において、呼びかけ人、賛同人、呼びかけ団体・賛同団体のメンバーであった者、四国フォーラムに出演するなどした者である。
(二) 被告後藤田は、本件書籍の「著者略歴」によれば、「一九一四年(大正三年)、徳島県生まれ。東京帝国大学法学部卒業後、一九三九年、内務省に入省。以後、自治省官房長、警察庁長官、内閣官房副長官を経て、一九七六年、旧徳島全県区から衆議院議員に当選し、以来当選七回。その間、自治相、内閣官房長官、総務庁長官を歴任し、宮沢内閣で副総理兼法相を務めた。」人物であり、本件書籍の著者である。
(三) 被告講談社は、書籍の出版等を目的とする株式会社であり、本件書籍の発行所である。
2 四国フォーラム
(一)(1) 四国フォーラムは、一九八九年(平成元年)一二月一五日に国連で「死刑廃止に向けての市民的および政治的権利に関する国際規約の第二選択議定書」(いわゆる「死刑廃止国際条約」)が採択されたのを受けて平成二年一二月一日に東京の日比谷公会堂で開催された「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム'90」を機に、その参加者を中心に四国でもフォーラムを開催することとなって、平成四年一一月二三日に愛媛県民館で開催された集まりであり、死刑制度について問題を自覚した個人が集って結成され、事務局長と事務局会議等で運営を決めていた以外には組織的な規律はなく、権利能力なき社団にもならない緩やかな集団である。
(2) 四国フォーラムは、その開催のため、予め事務局会議、実行委員会、合宿、キャラバン、講演、シンポジウムなどを行い、当日は、基調講演、報告、ミニメッセージ、シンセサイザー・コンサート、シンポジウム、パフォーマンス、リレーメッセージ、歌等を経て、平成元年一一月一〇日の死刑執行を最後に三年以上死刑執行ゼロの状態が続いていたことを受けて死刑執行ゼロの記録を更新し続けることなどを求める「四国フォーラム宣言」を採択して閉会した。
(二) また、四国フォーラムは、その開催に先立って、平成四年一〇月及び一一月、四国四県の県庁所在地において死刑の存廃についての意見を問う街頭アンケートを実施し、その結果が四国フォーラムの会場で発表されたが、その内容は、一九五五人中、「死刑は必要」が六八七人(三五%)、「死刑が不要」が七五九人(三九%)、「わからない」が五〇九人(二六%)というものであり(以下「本件アンケート」という。)、平成元年に内閣総理大臣官房広報室が行った世論調査の結果(「存置」66.5%、「廃止」15.7%、「その他」17.8%)とは全く異なるものであった。
3 執行再開
(一) 四国フォーラムが開催された約四か月後である平成五年三月二六日、被告後藤田が法務大臣であった当時、大阪拘置所と仙台拘置支所で三名について死刑が執行された(以下「執行再開」という。)。
(二) これは、前記の平成元年一一月一〇日の死刑執行以来約三年四か月ぶりの死刑執行であり、その後の死刑執行の契機となったものである。
4 被告後藤田の責任
(一) 被告後藤田は、本件書籍の中で、執行再開をした理由について、次のとおり述べた(以下「本件記述」という。)。
「その理由は、一つは法秩序というものはどうすれば守られるのかということが基本にある。同時に僕は、それだけでもいかんだろうと、世論調査ではどうなっているか調べたんです。そうしますと、政府の世論調査では七割ぐらいが死刑賛成論者ですね。死刑執行反対は少ないんです。しかしこういうものはそうした結果が出ることが多いんですね。だから僕は、これだけではいかんと思っていたところ、たまたまその前年か前々年ぐらいに、四国四県の県庁所在地、高松、松山、高知、徳島の街なかの繁華街で、通行人に何の選択もなしに世論調査をやっている結果があったんです。それがまた同じなんだ。死刑廃止に反対なんだ。これは政府がやった世論調査ではなくて、民間がやったんじゃないですかね。ちょっとはっきりしないんですけれど。それでも、そういう結果だから、これではまだ、日本では死刑廃止は早過ぎるという気がしたんですね。」
(二) 本件記述にいう「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」とは、本件アンケートのことであり、被告後藤田は、本件アンケートの結果を誤解し、これを執行再開の理由にし、かつ、その誤解した結果を本件書籍の読者に伝え、執行再開に理由があるかのような誤解を読者に与えた。
(三) 原告らは、死刑制度の廃止を願って四国フォーラムに参加し、本件アンケートを行って死刑制度存置の理由とされていた政府の世論調査が決して民意を反映したものではないことを明らかにし、死刑執行が再開されないように求めてきたが、被告後藤田は、本件記述によって、原告らの願いを踏みにじり、原告らの人格権を侵害した。
5 被告講談社の責任
被告講談社は、出版社として、記述が真実か否かを確かめて正確な記述を出版する責任があるところ、本件記述が、我が国の死刑存置論が存置の根拠とする重要な世論調査の結果にかかわるものであり、それが真実か否かを容易に確かめることができるにもかかわらず、本件書籍の曖昧な構成(伊藤隆及び御厨貴が被告後藤田から聞き取ったものを被告後藤田の著作物としたもの)を隠れみのにして被告後藤田の不法行為に加担し、敢えて真実か否かを確かめずに出版し、被告後藤田と同様、原告らの人格権を侵害した。
6 原告らの損害
(一) 原告らは、右のとおり、被告後藤田及び被告講談社の各不法行為により、それぞれ人格権を侵害された。
(二) 原告らが、被告らによる人格権侵害を差し止め、これを回復するためには、被告らが、①原告らに対し、慰謝料各一〇万円及びこれに対する本件書籍発行の日である平成一〇年六月二四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払い、②謝罪広告を掲載し、③出版を差し止め、④本件書籍を回収することが必要である。
7 よって、原告らは、被告らに対し、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
(被告後藤田)
1 請求原因事実1(一)は知らない。同(二)・(三)は認める。
2 同2(一)(1)・(2)、(二)は知らない。
3 同3(一)は認める。同(二)は知らない。
4(一) 同4(一)は認める。同(二)は知らない。
(二) 同4(三)は争う。
被告後藤田の本件記述によって、原告らの民事上の保護されるべき法的利益が侵害されたとは考えられない。
5 同6(一)・(二)は争う。
(被告講談社)
1 請求原因事実1(一)ないし(三)、2(一)(1)・(2)、(二)、3(一)、(二)、4(一)ないし(三)、6(一)・(二)についての認否は、被告後藤田と同じ。
本件書籍中の被告後藤田の本件記述によって、原告らの民事上の保護されるべき法的利益が侵害されるとは考えられない。
2 同5は争う。
理由
一 請求原因1(当事者関係)について
請求原因事実1(二)(被告後藤田が本件書籍の著者であることなど)、(三)(被告講談社が本件書籍の発行所であること)は当事者間に争いがなく、同(一)(原告らと四国フォーラムとの関係)は、証拠(甲三七、四〇、五一、五二の1〜3)及び弁論の全趣旨により認められる。
二 請求原因2(四国フォーラム)について
1 請求原因事実2(一)(1)・(2)(四国フォーラムの性格・内容、開催経過等)は、証拠(甲一、四、五の1〜3、一〇ないし一五、一七、一八、二二ないし二八、三一ないし三五、三六の1〜10、三七ないし四一、五一、五二の1〜3、五三、四二七ないし四二九)及び弁論の全趣旨により認められる。
2 同2(二)(本件アンケートの実施、内容等)は、証拠(甲四〇、四四、四六の1〜8、四七の1〜11、四八ないし五一、八五、四一二、四一八ないし四二〇、四二二、四二七)及び弁論の全趣旨により認められる。
三 請求原因事実3(一)(執行再開)について
請求原因3(一)は当事者間に争いがなく、同3(二)のうち、執行再開が平成元年一一月一〇日の死刑執行以来約三年四か月ぶりの死刑執行であり、その後も死刑が執行されたことは、証拠(甲一、三)及び弁論の全趣旨により認められる。
四 請求原因4(被告後藤田の責任)について
1 請求原因事実4(一)(本件記述の内容)は当事者間に争いがない。
2 同4(二)(本件アンケートと本件記述との関係等)
証拠(甲八〇、八二、八四、八五)及び弁論の全趣旨によれば、平成三年ころから平成四年ころまでの間、四国四県の県庁所在地の街頭において、本件アンケート(平成四年一〇月及び一一月に実施)以外に死刑の存廃についての世論調査が行われた形跡はないことが認められ、したがって、本件記述における「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」とは、本件アンケートのことを指すものであり、右世論調査の結果について言及した部分(「それがまた同じなんだ。死刑廃止に反対なんだ。」)は、本件書籍の読者に対し、「死刑は不要」が「死刑が必要」を上回るとの実際の結果を伝えるものではなく、それとは逆に、「死刑は必要」が「死刑は不要」を上回る結果であったことを伝えるものであり、本件記述は、その文脈からすると、被告後藤田が、このような「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」の結果も踏まえ、死刑廃止が時期尚早であるとの考えを有するに至ったことを読者に認識させる可能性のある内容のものであることが認められる。
3 同4(三)(被告後藤田の原告らに対する人格権の侵害)
(一) 前記のとおり、原告らは、本件記述によって、四国フォーラムに参加し、本件アンケートを行った原告らの死刑廃止や執行停止への願いが踏みにじられ、人格権を侵害された旨主張する。
しかしながら、仮に、原告らが本件記述によって死刑廃止や執行停止への願いを踏みにじられたとの感情を抱いたとしても、以下のとおり、結論的には本件記述が原告らに対する関係で不法行為を構成するものではなく、これによる不利益は法的救済の対象とはなり得ないというべきである。
(二) 被侵害利益の性質
(1) 人格権の内容及びその限界については未だ確立したものはなく、他方、不法行為法上、法的保護に値する利益の侵害がなければ不法行為は成立しないと解されており、本件のような主観的な感情にかかわる問題に法的保護がどこまで及ぶかという点については議論の存するところであるが、次のような事情、すなわち、①原告らが侵害されたとする利益は、原告ら個人の社会的評価や私生活の平穏等と異なり、死刑廃止や執行停止への願いというものであるところ、感情の領域の問題についてまで無条件に法的保護の対象になるとすれば、法が感情の領域に立ち入ることになり、人格権の外延は著しく広がり、権利の実質を伴わないものについてまで法的保護を与えることになること、②本件記述は、原告ら個人を直接の対象とするものではなく、原告らの主張する人格権侵害は、原告らが本件アンケートを実施した四国フォーラムとの間に一定の関係があるが故に生じるものであり、その意味で、四国フォーラムを媒介にした間接的なものである上、本件記述においては、「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」とあるだけで、右媒介となる四国フォーラムの名称自体も顕れていないこと、③本件記述を行う者にとっては、「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」の結果を実際の結果と異なって記述すれば、その実施主体ないしその関係者の何らかの利益を侵害するに至ることは抽象的には予見可能であるとしても、本件原告ら個人への影響を事前に具体的に認識することは困難であることなどの事情に鑑みると、原告らが被告後藤田の行為によって精神的苦痛を受けたとしても、これをもって社会通念上受忍限度を超えるものとまではいうことはできず、原告らが侵害されたとする利益について法的保護に値する利益とみることは困難である。
(2) また、仮に、原告らが侵害されたとする利益を「内心の静穏な感情を害されない利益」(最高裁判所昭和六一年(オ)第三二九号、第三三〇号・平成三年四月二六日第二小法廷判決・民集四五巻四号六五三頁参照)として法的保護に値する利益と解する余地があるとしても、右利益は、侵害行為があれば直ちに不法行為が成立するような強固な利益ではないことは明らかであり、その利益としての性質に鑑みると、侵害行為の態様、程度いかんによって、不法行為が成立する余地があるにとどまるものと解される。
(三) 侵害行為の態様、程度
(1) そこで、右(二)(2)のような観点から、すすんで、被告後藤田の行為について検討するに、証拠(甲七二、七四ないし七六、八〇ないし八四、六六八)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告後藤田は、平成五年二月二三日に行われた衆議院法務委員会会議において、就任直後の「当面は執行 死刑制度で法相」との見出しの新聞報道を踏まえ、改めて死刑執行についての考え方を訪ねる小森委員の質問に対し、次のような答弁を行った(甲六六八)。
「私は、昨年の暮れの十二日に突然法務大臣という重たいお役目を引き受けることになったわけですが、その当時、やはり法務行政全般についての知識も余りないままに新聞のインタビュー等に応じたわけですが、突然、死刑をどう思うんだ、こういうような御質問があり、私は私の考えているままをお答えした記憶がございます。
私はやはり、死刑制度というものが存在をし、そして慎重な裁判の結果、極悪非道な犯人に対しては死刑を宣告するということがある以上、そしてまた、それが今日我が国では行われておるという以上は、やはり現在の建前で死刑の執行は法務大臣の命令によるということがある以上、それは法務大臣の職責として守っていかなければ国の秩序が守られないではないか、私はさような考え方でございます。
ただしかし、死刑制度をどう考えるんだということになりますと、これは私は、あの当時申し上げたのは、やはりまだ日本の国内では死刑制度については存続論が圧倒的に多いといったような統計の資料も承知しておったわけでございますが、しかし、同時にまた、欧米先進各国が大体は死刑は制度としては廃止をしておる、アメリカはちょっと別ですけれども、そういうような国際的な情勢も一方にある。それからまた、国内も、私の郷里なんかでは、去年かおととしでしたか、何か世論調査みたいなことを街頭で四国四県の県庁所在地でやったように聞いてもおるんですが、やはり何といいますか、若い世代の人にどちらかというと廃止の意見がふえつつあるといったようなことを考えますと、制度としてこの間題をどう考えるかということになると、現時点では死刑存続論が多いけれども、各国の状況なり国内の若い人の気持ち、こういうものがあるわけでございますから、そこらはよほど慎重に考えてこの問題には対処しなければならぬ、こういうことを申し上げたわけでございます。
これで、小森さんと私の考え方の中には、あるいは食い違っているところがあるかもしれませんが、私はさような考え方で法務大臣としての職責を果たしたい、かように考えております。」
イ 本件書籍(下巻)及び上巻は、被告後藤田が、平成七年から平成九年一二月までの計二七回にわたるインタビューに答える形式で、主にその記憶に基づき、官僚、政治家としての多年の経験を幅広く述懐したものであり、政策研究大学院大学の政策研究プロジェクトの伊藤隆及び御厨貴が推進している「公的経験」を公有化していこうという取り組みの成果として、平成一〇年六月二四日に第一刷が発行され、同年七月一四日に第三刷が発行されたものであり、そのうち死刑制度について触れた部分は、本件書籍(下巻)の約四頁だけである(甲七二、七四、七五、弁論の全趣旨)。
ウ 原告らは、本件書籍に接した後、被告後藤田に対し、数回にわたって本件記述に関する質問書等を送付し、これに対して、被告後藤田代理人弁護士才口千晴から、被告後藤田の見解を聴取した結果であるとして、次のような内容の回答書、すなわち、①被告後藤田は、法務大臣在任当時、四国フォーラムの存在や組織について知ってはおらず、本件記述における「世論調査」が四国フォーラムが実施した調査であるとの認識や理解もなく、自らが調査した資料の中に本件記述の如き調査結果が存在したとの認識であること、②右資料における調査結果によれば、政府の世論調査では七割ぐらいが死刑賛成論者であり、民間の調査結果では死刑制度の存否につき数値がほぼ拮抗しており、存否のいずれも過半数を超したものではなかったので、死刑制度廃止についての世論や国民意識は未だ多数とはいえないと認識し、このような認識に基づいて「死刑廃止に反対なんだ」と記述したものであり、「それがまた同じなんだ」との記述も、反対者の数が過半数に達していなかったとの意味を述べたものであること、③「日本では死刑廃止は早過ぎる」との結論は、法務大臣の職責上当然であると考えつつも世論調査をも調べた上で判断したものであり、世論調査の結果によって初めて右結論を出したものではないこと、④執行再開は、法務大臣の職責に基づき行ったものであり、死刑制度の存否との関連はないこと、などを内容とする回答書が返送された(甲七六、八〇ないし八四)。
(2) 検討
右認定事実をもとに被告後藤田の行為について検討するに、①右アの答弁の内容及び右ウの回答書の内容からうかがわれる被告後藤田の本件アンケートに関する認識の程度(前記2と同様の理由により、右答弁中の「四国四県の県庁所在地で行った世論調査」も本件アンケートを指すものと認められる。)、②右イにおいて認められる本件書籍の主たる目的ないし性格、③本件記述においても「これは政府がやった世論調査ではなくて、民間がやったんじゃないですかね。ちょっとはっきりしないんですけど。」などと記載されている事実、さらには、④本件記述の内容からして、本件書籍の読者として想定される者のうち、四国フォーラムについて深い関心を有する者であれば、本件記述によって本件アンケート結果が死刑存置を支持するものであると誤解することは考え難く、それ以外の者は、本件記述が本件アンケート結果についてのものであると認識することは少ないと考えられること、⑤本件書籍が発行されたのは、本件アンケート実施から六年後の平成一〇年であり、被告後藤田が本件記述によって四国フォーラムないしその関係者の死刑廃止運動を妨害しようとしたとも考え難いことなどの事情に鑑みると、被告後藤田の侵害行為をもって、社会的に許容し得る限度を超えるものとまではいうことはできない(なお、右ウの回答書によれば、「それがまた同じなんだ」との記述は、反対者の数が過半数に達していなかったとの意味を述べたものであるとのことであるが、前後の文脈からすると、本件書籍の読者がそのように理解するのは困難であると考える。)。
(四) 小括
以上のとおりであり、被告後藤田の行った本件記述は、原告らに対する関係で不法行為を構成するものではなく、したがって、原告らの被告後藤田に対する請求は、その余について検討を加えるまでもなく理由がない。
五 請求原因5(被告講談社の責任)について
原告らの被告講談社に対する請求は、被告後藤田の行為への加担による人格権侵害を根拠とするものであり、本件記述が原告らに対する関係で不法行為を構成することが前提となるものであるところ、右四のとおり、本件記述は不法行為を構成しないから、その余について検討を加えるまでもなく理由がない。
六 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・豊永多門、裁判官・中山雅之、裁判官・末弘陽一)
別紙目録<省略>